はやく・・・ 気ばかりが急いてなかなか上手く前に進めない。 アンジェリークに勇気付けられ、そのまま走ってきたはいいが・・・。 補佐官としていつも着ている服はひどく走りにくいものだった。 それでも、懸命に走る。 少しでもはやくそこへ着くために。 (間に合うかしら・・・?) 不安がよぎる。 それでも、その不安を消すかのように走った。 こんなに走ったのは初めてではないだろうか・・・? 「ヴィクトール・・・!」 学芸館の入り口にその人の姿を見つけ、泣きそうになった。 間に合った・・・。 安心したせいで急にどっと疲れが出、思わず座り込んでしまいそうになる。 「ロザリア様?」 珍しく息を切らせている彼女にヴィクトールは近づいてゆく。 「私、言いたい事があって・・・。」 ロザリアの美しい声が小さくもれる。 まだ息が荒く、そのため、最後は吐息となって消えた。 「なんですか?」 尋ね返され、戸惑う。 (どうしよう・・・。) ここまで来たはいいが、いざその場になって迷いが出た。 アンジェリークに思いを伝えた方がいいと言ったが、 こんなにどきどきするものとは思わなかった・・・。 親友の笑顔を思い出す。 アンジェリーク ・・・大丈夫、出来るわ、私には 天使 が着いてるのですもの。 今は女神となった、美しい金の天使が・・・。 「私は・・・」 振られたらその時は泣けばいい。 「私は・・・あなたが好きです、ヴィクトール。」 顔をあげて言う。 視界に入ったヴィクトールは、戸惑いを隠せないようだった。 「ヴィクトール・・・?」 珍しい表情に思わず不安になり、名を呼んでいた。 「えっ・・・あぁ、すみません。」 いつもの表情に戻る。軍人の顔・・・。 「えっと・・・ロザリア様・・・。」 ヴィクトールは珍しく歯切れが悪い。 きっとダメなのだろう。けれどそれでもいいと思った。 ヴィクトールの言葉を待つ。 「今の言葉は・・・本当ですか?」 「・・・?えぇ、もちろんですわ。」 「俺でいいんですね?」 尋ねられ、うなずく。そんな中で、期待してしまう。もしかしたら・・・と。 「俺も・・・好きです。」 ヴィクトールの言葉に驚く。こうなる事は予想していなかった。 考えてみればおかしな話だが・・・けれど・・・。 「一つ、お願いしてもいいですか?」 ロザリアの小さな声に、ヴィクトールは頷いた。 ロザリアはバラのように微笑み、更に小さな声で願い事を囁く。 「名前を・・・。」 「えっ?」 聞き返すヴィクトールに焦らす様に一息入れて繰り返す。 「名前を呼んでください。ロザリアと・・・。」 女王補佐官ではなく、一人の少女として・・・。 その、あまりにささやかな願いにヴィクトールは笑みを浮かべ、ロザリアにゆっくりと囁いた。 「ロザリア・・・愛してるよ。」 |