「今のって陛下じゃないの?」 不意に後ろで声がして、驚き振り向いた。 そこに居たのは金の髪の女王候補・・・レイチェルである。 「見間違いじゃないんですか?」 努めて冷静にエルンストは言った。 けれど、レイチェルは誤魔化されない。 「ううん、今のは絶対陛下だった!」 言い張るレイチェルに溜め息をつく。 そして、思いついた。 そう、何もやましい事はないのだから、真実を言ってしまえばいいということに・・・。 「確かに、今のは陛下です。 二人の様子を聞きに来たのですよ。」 そう、言葉にしてしまえば、あまりにそっけない時間に思える。 真実を−その時の二人の知らなければ・・・。 けれど、真実を知らないはずなのに、レイチェルは食い下がる。 「じゃあ、なんで笑顔なの!?」 ほとんど叫ぶようにレイチェルが言う。 「普段、まったく笑わないくせに!!」 そう、確かにあまり笑わないかったかもしれない。 良く笑うようになったのは、彼女と会ってからだ・・・。 蓋をしたはずの答えに触れそうになって、再び思考をそらす。 それにしても・・・ 「まったく笑わない訳じゃありませんよ。」 彼だって人間なのだから。 けれど、レイチェルは首を振る。 「だって、笑うっていったって、フッて位じゃない! そんなの、笑うとは言わないよ!!」 その程度の笑しかした事がなかったのだろうか、以前の自分は? 再び思考の海に沈み込もうとしたエルンストを、レイチェルの声が遮る。 「まさか・・・まさか、陛下を好きなんじゃ・・・!」 レイチェルの言った言葉はエルンストの辿り着いた答えと全く一緒で・・・。 けれど、エルンストは否定した。 たとえそれが真実でも、決して知られてはいけないから。 そして、気付いてしまった。 それが、真実である事に。 気付いてしまえば元には戻れない・・・。 身体が水を求めるように求めずには居られない。 そう、求めるものは唯一つ・・・。 土の曜日が再び来た。 金の女王が足取りも軽く訪ねてくる。 エルンストは入り口で彼女を迎える。 どうしようか、悩んだ。 真実を、答えを手にして。 言葉で言い尽くされないほど悩んで、そして・・・。 「陛下にお話があるのです。」 きょとんとした顔で、リモージュは首を傾けた。 その様子を愛しく思いながら、言葉を口にする。 「私は陛下を好きになってしまったようなのです・・・ だから・・・。」 一つ、溜め息をつく。 「だから、もう来ないで頂きたいのです。」 求めてはいけない人・・・だから。 この思いに蓋をしてしまおうとそう思った。 言葉に出してしまうと、ひどく切なかった。 夢の終わりのような空虚な感じ・・・。 「わたしも・・・!私もエルンストが好きなの!」 その空虚さを壊したのは女王の澄んだ声。 必死な顔で言う彼女が愛しくて、思わず抱きしめる。 「エルンスト?」 「夢じゃないんですね・・・。」 抱きしめた瞬間に消えてしまうかと思ったが・・・。 自分の言葉に苦笑して、エルンストは腕を解いた。 「お茶にしましょうか、アンジェリーク?」 すこしぎこちなく言うと、リモージュ・・・アンジェリークは輝かんばかりの笑顔になった。
Fin
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