公園は、月の下、幻想的に映し出されていた。



秘め事



女王即位を翌日に控え、ロザリアは一人、公園を歩いていた。

見上げた先には満月。
それは魔力を含むように美しく、ロザリアは愛しい人に思いをはせた。

赤い髪、蒼い瞳。
整った男らしい顔立ち。
甘い声、甘いセリフ。

でもそんな外見に彼女は惹かれたわけではなかった。

優しくて厳しい人だから。
包み込むように見えて、決してある一線は越えさせない人だから。
ともすれば冷たくさえ思える人だから。

だから好きになったのだ。
彼女が惹かれたのは、その本質だった。

伝えることの出来なかった想いが、胸の中を巡る。

それを理解して、ロザリアは自嘲の笑みを浮かべた。

伝えることの出来なかった想い。
二度と、伝えることは叶わない想い。

それに思いをはせる彼女は美しく、けれど、痛かった。

「お嬢ちゃん。」

一瞬、幻聴かと思った。
その声は、想いを伝えられなかったあの人のモノだ。

それでもその声は現実感を帯び、だから、ロザリアは振り向いた。
驚いた顔をして立っている、彼女の想い人にロザリアは微笑む。

いっそ伝えてしまおうか?

そんな気持ちが浮かび上がる。
甘い誘惑。
傾いてしまいそうな、心。

「部屋まで送ろう。何かあったら大変だからな。」

そんなロザリアの心を知らず、微笑みながらオスカーは言った。
驚きはもう、跡形も無く消されていた。

差し出された、オスカーの手。
優しい、思いやりの言葉。
甘い微笑み。

けれど、ロザリアは気付いた。
気付いてしまった。

その手が、言葉が、微笑が、『ロザリア』にではなく、
『次期女王』に向けられたものであることに。
すでに、その人の中には『ロザリア』は居ないことに。

まるで、冷水を浴びせられたかのような衝撃。

「えぇ。」

それでも、ロザリアはそれを表面に出す事無く、微笑んだ。
先ほどの自嘲の笑みに似た、悲しげな、微笑み。
悲しくも、美しい・・・否、悲しみを含むからこそ、それは美しかった。

それが、『ロザリア』が見せた最後の微笑み。



翌日、彼女は女王となった。
胸に秘め事を抱いたまま。
その秘め事に蓋をしたまま。









オス×ロザ3部作(?)の1本目です。
ごめんなさい、オスカーFanの皆様。(またかよ)
こんなのオスカー様じゃない、とお嘆きの方々、私もそう思います。(ぉ)
なんであんなになってしまったんでしょう・・・。