その日、聖地をあるニュースが駆け抜けた・・・。



Cry for the moon



炎の守護聖退任。
そのニュースは瞬く間に聖地へと広がった。

どこから漏れたのかは知らない。
とにかく一度出た情報は人々の口の端に尽くのぼり、尾ひれを付け、
けれど真実だけは曲げずに伝えられていった。
そう、退任という事実だけは曲げずに。

その情報の速さは、彼の人望も有るだろう。
聖地の女性たちは悲しげな溜息とともにそれを伝えた。
あるものは悲鳴を上げ、またあるものは泣き、
そうしながらも他のものにその事実を伝えた。

聖地は、女性たちの嘆きで埋め尽くされた。

彼が愛されている証拠、だろう。

けれど、それとは逆に一つだけ静まり返っていた場所があった。
女王のいる聖殿である。

その情報の元である聖殿は、そこだけは、聖地の中で唯一静かだった。
頑なにその静寂を守っていた。

まるで、それが聖殿の主の意思であるかのように。

「陛下、入るわよ?」

その静かな聖殿の、女王の私室にノックが響いた。
返事が返る前に、リモージュは扉を開く。

外と同じく薄暗い部屋。
今日は太陽さえ退任を嘆くように姿を見せない。

そして、その薄暗い部屋に彼女はいた。
彼女はその薄暗い部屋で微かに光帯びているように見える、彼女。

「アンジェリーク。」

ゆっくりとロザリアが振り返る。
らしくもなく、床に座り込んだまま。

泣いているのだと思った。

けれど、振り返った彼女は。
微笑んでいた。

なぜ微笑んでいるのだろうと思った。
ロザリアがオスカーを想っている事をリモージュは知っていたから。
だから、その表情に疑問を持った。

候補生の頃からの恋。
女王の座についてからロザリアがその想いを口にしたことは無かったけれど。
けれど、誰より近くにいたリモージュには分かっていた。
その想いが潰えたのではないことが。

「オスカーの退任が決まったわ。」

知らないはずは無いと思いながら、確認するようにリモージュは言う。
残酷だと、そう思った。
それでもいつかは知ることだと、疵付きながらも言葉を紡いだ。

「えぇ。」

ロザリアが答えたのはそれだけだった。
頷きながらの言葉。
その表情はやっぱり微笑みで。
綺麗で。

だけど、それを見てリモージュは泣きたくなった。

気付いてしまった。

ロザリアの微笑みの意味を。
その微笑みは涙を隠すため。
だから見るものがこんなに悲しくなるのだ。

それは、綺麗なのに、泣きたくなるほどの悲しみを含んだ笑みだった。

ロザリアは泣けないのだ。
女王だから。
その地位に縛られているから。

そう、自分を戒めているから。

それが痛いほど分かって。
無理に浮かべた微笑悲しくて。

リモージュは涙を流した。
泣けない彼女の月のために。
泣けない彼女の女王のために。









私のロザリアのイメージは蒼い月だったりします。
凛としてて、でも優しくて。
なので、ロザリアを月に重ねる話は結構あったりします。
で、Cry for the moon。
私は『月のために泣く』という意味にとったのでこんな話になりました。
泣けないロザリアの変わりに泣くリモージュ。
ロザリアが月ならリモージュは太陽なイメージなのです。
満ち欠けして変わる月とは裏腹に、いつまでも変わらない太陽。
女王になって変わってしまったロザリアと、補佐官になっても変わらないリモージュ。
そんなイメージでした。

・・・私は英語が出来ない人間です。
和訳が間違ってたら教えてやってください。(汗)

この話は『秘め事』『涙』にリンクしてます。
順序的には秘め事(候補)→Cry for the moon(女王)→涙(女王退任)です。