月が夢のように輝いていた。
運命
月に誘われるように庭へ出る。
今、庭を支配するのは夜の黒。
太陽はすでに力を失い、満ちた月が中天へ昇っていた。
その真夜中と言える時間に、アイツは庭に居た。
何をするでもなく、ただ、佇んで。
横顔は少し上を向き、月を見ているようにも思えた。
違和感は無かった。
ここはアイツが主と仰ぐ少女の館だし、この時間、見回りをすることを俺は知っていた。
だから、ソレは珍しくともなんとも無い光景だった。
むしろ、この時刻、この場所に居ることがオカシイのは俺の方だろう。
「よぉ、頼久。」
月を仰ぐアイツに声をかけた。
無駄の無い動作でアイツが振り向く。
流れるような動作というのは、こういう事をいうのかもな、とそう思った。
「天真。」
「どうした、ボーっとして?」
名前の呼び方が、少しいつもと違った。
隙の無さを感じる呼び方ではなく、
ただ呼んだだけといった鷹揚の無いその呼び方はアイツらしくなかった。
珍しい、とそう思った。
「神子殿の事を考えていた。」
そっとアイツがため息を漏らすのを目撃する。
他の奴ならきっと気付かないほど微かなソレに俺は違和感を覚えた。
ため息をつくなんて、やっぱりらしくない。
そう思いながら、アイツの言葉に耳を傾けた。
「神子殿が帰られた後、自分はどうするのだろうと。」
「?一緒に俺たちの世界に来るんだろう?」
「私は・・・行かない。」
「・・・てっきり、オマエが俺たちの世界に来るんだと思ってたぜ?そうか、あかねが残るのか。」
寂しくなるな、と思わず呟いた俺にアイツは首を振る。
その反応に、ナゼか嫌な予感がした。
「私は言った筈だぞ?『神子殿が帰った後』だと。」
「・・・手放すのか?」
淡々と言ったアイツに声が低くなるのを抑えられなかった。
何の感情も伺えない声、瞳、表情・・・。
「私には京を捨てることは出来ない。」
「なら、あかねに言えばいいだろう!?京へ残ってくれって!!」
「それで?神子殿の帰りを待つものはどうなる?」
激しい怒りはそこで静かになった。
交わるはずのない運命。
そう、言われた気がした。
頼久は・・・コイツは・・・。
不器用で、でも優しくて。
あかねのことを誰より考えて。
だけど、周りのことを無視することは出来なくて。
だから、二人の運命は交わらない。
そこで不意にわかった。
俺たちの世界に『行かない』ではなく、『行けない』のだと。
周りが悲しむことがわかるから。
だから『行けない』のだと。
周りが悲しむことが分かるから。
だから『手放す』のだと。
そこまでわかって、俺はナゼだか泣きたくなった。
それはアイツが自分の感情を押し殺していると気付いたせいかも知れない。
アイツが本当にあかねを思っていると気付いたせいかも知れない。
本当は誰より、あかねが残ることを望んでいると気付いたせいかも知れない。
だけど、言えなくて。
感情を押し殺して。
ただ、冷めたフリをして?
「そこまで考えての結果なら、俺は何も言わない。」
アイツの目を見て言う。
『何も言えない』というのが本当の感情だったけれど。
そして俺はある決意をする。
別れの後、落ち込むあかねの傍に居ようと。
頼久がそう望んでいる気がした。
だから、俺に打ち明けた、そう思った。
泣くあかねの傍に居る。
それは傷の舐め合いかもしれないけれど。
それでもいいと、思った。
捧げ物部屋でも書いてますが。
神羅様のHPはノーマルなので、気をつけて書きました。
そして、深読みも出来るように頑張りました。(笑)
深読み時には、『傷の舐めあい』あたりに注目してください。(笑)
そして、本人様に申告したように暗くなりました。
・・・ごめんなさい〜。
と、とりあえず貰っていただけると嬉しいですv
素敵なリクエスト、ありがとうございましたvv
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