懐かしい場所に来た…。



二人の未来図



懐かしいというのはオカシイかもしれない。
最後にここに来てから、まだ、一月もたっていないのだから。

それでも、一人で過ごした一月余りは彼にとって長く。
だから、この場所をとても懐かしく感じていた。

森の湖。

その場所へ一人、足を踏み入れ、
最後にこの場所を訪れたときのことをランディは思い出した。

(あぁ、あの時は彼女が一緒だった。)

いつも隣にいた彼女。
今も近くに居て、だけど、誰よりも遠いヒト。

「ランディ…?」

不意に声をかけられた。
懐かしい声音。

あれから毎日のように聞いているその声を懐かしいと感じたのは、
彼女が名を呼んだからかもしれない。

あれから毎日聞いて、けれど自分の名を呼ぶことは決してなかった声…。

「陛下…。」

名前を呼ぼうとして、ランディは思いとどまった。
呼べば、抱きしめてしまうから。
抱きしめれば、離せなくなるから。

この想いは…忘れなくてはいけないものなのに…。

リモージュの瞳が少し翳ったように見えた。
気まずい沈黙が流れる。

会いたくなかった。
そう、彼女の声が聞こえるようで、ランディは苦笑した。

「お邪魔みたいですね…。俺、帰ります。」

一月の間でなれた敬語。
彼女に向けられたソレは違和感がなくて。
まるで、二人の距離を示すようだった…。

それに少しの寂しさを抱いたまま、ランディはくるりと彼女に背を向けた。

「待って。」

そんなランディを止めたのはリモージュだった。
立ち止まった彼は、だけど振り向かなかった。

「どうして聞かないの?」

ランディの背に向けてリモージュは口を開く。
もれ出た声は小さなものだった。

「どうして聞かないの?なんで女王の座を選んだんだって。どうして…責めないの?」
「責めて欲しいのかい?」

懺悔のように言ったリモージュにランディは振り向きながら聞いた。
その顔に浮かぶのは微笑み。
それは決して、リモージュを責めるものではなかった。

それとは逆に、優しい、全てを包むような微笑。
それを見て、リモージュは両手で顔を覆い、首を横に振った。

責めて欲しい訳じゃなかった。

責めて欲しい訳ではなかったが、その優しさが苦しくて。
いっそ責めてくれた方が楽だったのに、と心で呟き彼女は涙を流した。

「ゴメン…泣かすつもりじゃなかったんだ。」

二人の立つ位置は、今ひどく遠かった。
その距離がランディにはつらくて、せめて現実的な距離だけは近づこうと、
ランディはリモージュの傍に歩み寄る。

「・・・して。」

近づくと、嗚咽交じりのリモージュの声が聞こえた。

「どうして、優しいの?」

彼女だったら、きっとそんな風には出来ないだろうとリモージュは思った。
きっと、傷つけるようなことを言ってしまう、してしまう。
彼のような態度は・・・とれない。

「俺はまだ、諦めてないから。」

ランディから返った答えは・・・リモージュの想像し得ないものだった。
おもわず、え?と顔を上げてしまう。
涙は驚きで消し飛んだ。

「やっと顔を上げたね。」

ランディは嬉しそうに笑った。

「俺は君が好きだから。今でも好きだから。だから、諦めずに待とうと思ったんだ。」

何を待つかは、言わなかった。
それはリモージュが女王より彼を選ぶ日かもしれないし、
彼女が女王でなくなるときかもしれない。

だけど、そのどちらもひどく遠い未来の図だ。
来るかどうかも分からない未来。

それなのに、待つのだとランディは屈託なく笑う。
二人の道はもう交わることがないかもしれないのに。
ただ、少しの可能性を信じて。

嬉しくて、リモージュの頬を涙が伝った。
再び顔を両手で覆うと、ランディが慌てたように名を呼んだ。

「ありがとう。」

小さく呟いたリモージュに、彼女が悲しくて泣いているのではないと分かって、
ランディはそっと彼女を抱きしめた。

「いつまでも待つから。」

耳元で彼女にささやくと・・・
小さな頷きが返ってきた。

二人が描くのは、幸せな未来図。







砂治嬢のリクエストで『漫画後の二人』でした。
そういえば、砂治嬢にきちんとしたキリリクを書くのは始めてかも。
いや、強奪品やら、送り付けやらはありますが。(爆)
強奪品は・・・もうちょっとまってください(汗・墓穴)
で、リクエストではほのぼのした二人、だったのですが。
どこがほのぼの?(爆)
いや〜、スランプなせいか、書く話書く話暗くなってしまって・・・。
そんな訳で、砂治嬢、こんな話ですが貰っていただけると幸いです。
素敵なリクエストありがとうございました。