刹那の至福



コンコンと扉がなって、アンジェリークは扉を開けた。

扉の外に居た青年は、アンジェリークと同じ茶色い髪の青年。

アンジェリークは、扉の外に居た青年に微笑みかける。

「おはようございます、ランディ様。」

「おはよう、アンジェ。」

元気に挨拶したアンジェリークにランディも笑顔で挨拶を返した。

そのまま、二人並んで歩き出す。

女王試験も無事、アンジェリークの勝利で幕を閉じて3日。

彼女と、その補佐官となったレイチェルが聖地を去るまで、今日をあわせて後4日。

二人は、過ぎ去った3日を毎日下界で過ごしていた。

まるで、不安を消すかのように・・・。

そして、残る4日も下界で過ごすつもりだった。

それは、二人の足掻きだった。

「アンジェリーク!!」

レイチェルが向こうから駆けてくるのが見えた。

優秀なる新宇宙の補佐官は、二人が下界へ行くのを快く思ってはいなかった。

「今日も外へ行く気?まだ準備、終わってないでしょ?」

側に来るなり小言を言い始めたレイチェルに、しゅんと項垂れてアンジェは小言を聞く。

こんこんと小言を言い続けるレイチェルをランディは横目で見た。

まるで教師かなにかのように、目を瞑りながら女王の何たるかを説くレイチェル。

「逃げよう、アンジェ!」

その一瞬の隙をついて、ランディはアンジェリークの手を取り駆け出した。

「アンジェ!!ランディ様!!」

叫ぶレイチェルがどんどん遠くなる。

完全にレイチェルが見えなくなって、彼らが足を止めた時、

そこはいつも訪れる思い出の丘だった。

ランディがアンジェリークへと思いを伝えた場所・・・。

女王試験中、一度だけ聖地を抜け出した彼らは、夕日の下で恋人同士になった。

息も絶え絶えな二人は、顔を見合わせて笑った。

笑い始めたのが一緒なら、笑い終えるのも一緒だった。

ひとしきり笑った二人は、笑いを収め、夕日を見つめる。

夕日は、あの日のように赤い。

ここで夕日を見るために、この3日間彼らは聖地を抜け出していた。

思い出の日を忘れないよう、二人は毎日ここへと通う。

もうすぐ離れ離れになる二人だから。

せめて、いつでもあの日を思い出せるように・・・。

せめて、思い出だけは楽しいように・・・。

「もうすぐ、ですね・・・。」

しんみりと、泣きそうな声で言ったアンジェリークをランディが抱きしめる。

「すぐに会えるさ・・・。」

気休めにさえならない言葉。

それは希望で・・・。

本当にそう思いたいのは、そう信じたいのは、彼自身だった。

恋人達を見守り、日は沈んでいく。



残りの日々もも二人は聖地を抜け出した。

いつでも思い出せるように・・・。

そして、3日後、アンジェリークは新宇宙へと旅立った。

刹那の至福は・・・終わりを告げる。

再会のその日まで・・・。






汁茶様のリクエスト品です。
いくつか候補を挙げて頂いたのですが、結局これに。
ランディ×元気アンジェで下界に行くのがクセになり、レイチェルに怒られる話、との事でした。
他の候補も素敵だったのですが・・・。
ランロザは、いつもと代わらないし、他の2つは、私にはムリっぽかったのです〜。(泣)
という訳(?)で、汁茶様申し訳ありません〜。
拙い作品ですが、汁茶様に捧げさせていただきます。
気に入ってもらえると幸いですv