ありがとうという言葉
その日はとてもいい天気の日だった。
涼しい秋の風が頬を撫でていく。
アクラムとの最終決戦から早5ヶ月。
京はようやく落ち着きを取り戻した。
かつて龍神の神子だった少女−あかねも、ようやく京の生活に慣れた様である。
そんなある日の事だった。
「なぁ、一緒に出かけないか?」
誘ったのは赤い髪の少年。
天の朱雀、イノリである。
もっとも、元ではあるが。
かつて額にあった宝玉はすでに失われている。
彼こそ、あかねがこの地に留まった理由であった。
そう、あかねはイノリが好きなのだ。
そして、もちろんイノリも・・・。
イノリは彼女に問い掛けたにもかかわらず、その答えも聞かずに手を取った。
引っ張られ、立ち上がる。
「イノリ君?どこ行くの?」
「ついてくればわかるって。」
にっとイノリが笑った。
引っ張られるようにして連れてこられたのは丘だった。
紅く染まった紅葉に山々が彩られ、美しかった。
「きれい・・・。」
溜め息を洩らして言ったあかねに、イノリが笑顔になる。
「おまえに見せたくてさ・・・。」
その言葉と、見せられた笑顔にあかねも笑みを浮かべる。
「俺・・・お前に言いたい事が有ってさ・・・。」
唐突な言葉。
その言葉は歯切れが悪く、イノリらしくない。
けれど、何かを悩んでいるのは伝わってきた。
その心の躊躇いも・・・。
だから、あかねはイノリが口を開くまで待った。
やがて、しばらくの沈黙の後、イノリはようやく言葉を紡いだ。
「謝りたかったんだ・・・。」
じっと耳を傾ける。
イノリの顔が切なげに歪む。
「謝りたかったんだ。お前から全部を奪った事・・・。」
確かに、あかねはここでは異邦人で。
家族も過去も失った。
「でも、気が変わった。どんな時も笑顔のお前だから・・・。だから・・・」
あかねは全てを失っても変わらず笑顔で居る。
たぶん、不安や迷いもあっただろう・・・。
それでも、それを微塵も感じさせない彼女。
「だから『ありがとう』にしようと思うんだ。」
先ほどの切なげな顔とはうって変わったかのような輝かんばかりの笑顔。
「ありがとう・・・俺の側に残ってくれて・・・。」
ありがとう・・・。
それは、魔法の言葉。
それだけで、あるいはその笑顔だけであかねが幸せな気持ちになる事をイノリは知らない。
それだけで、不安が消え、残ってよかったとさえ思うことも・・・。
初『遥か』です!
リクエストされない限り、もう書くことは無いかな?
やっぱり、『遥か』は難しいです。(苦笑)
『ごめん』より、『ありがとう』の方がいいというのは、私の意見です。
よく、『ありがとう』の場面で『ごめん』と言ってしまうのですが。
まぁ、そこら辺はそのうち戯言にでも書こうかと。(笑)
かなり駄文度UPな話ですが貰っていただけると幸いです(^−^)
季節は11月の初めくらいかな?
『丘』って書いてますけど、イメージは将軍塚で。(笑)
将軍塚からきれいな紅葉が見えるかは知りませんが。(爆)
最後になりましたが、この話は暖明様に捧げますvv
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