彼女の訳
金の女王が治める宇宙の聖地には、森の湖と呼ばれる場所がある。
その泉にはさらさらと涼しげな音を立てる滝があった。
その滝を見つめる少女が一人・・・。
女王候補のアンジェリーク・コレットである。
試験は終盤。
アンジェリークはレイチェルに大差をつけられていた。
「ダメかもしれない・・・。」
溜め息をついてそんな事を呟く。
レイチェルはさすが天才といわれるだけあって、スムーズに試験をこなしてゆく。
もう、追いつけないかも・・・。
そう思うときが重くて・・・。
もう何時間もアンジェリークはその湖を見ていた。
「アンジェリーク!?」
突然、声がした。
現れたのは彼女とレイチェルに品位に着いて教える教官。
ティムカである。
「ティムカ様。」
意味もなく名前を呼んでティムカを見ると、ティムカは驚きを隠さないまま尋ねてきた。
「どうしたんですか、こんな時間に?」
こんな時間・・・。
今が何時か見当もつかなかったが、確かに日が沈みかけている。
日が沈むまでには帰るように・・・と言われてはいるのだが・・・。
それでも、アンジェリークは動こうとしなかった。
「考えていたんです・・・。」
ぽつりと話し出す。
ずっと前から感じていた事を・・・。
「どうして私なんだろうって。
私、レイチェルみたいに頭もよくないし、運動神経もよくない・・・。
なのに、どうして私が女王候補に選ばれたんでしょう・・・。」
俯きながら言ったアンジェリークに、ティムカが一つ溜め息を洩らす。
「あきらめるのですか?」
失望を含んでティムカは言った。
その声は、ティムカ自身が誰か他の人の声ようだと感じるほど静かだ。
「あきらめません。」
アンジェリークは、しかしティムカの声音の変化に気付かなかったようである。
まっすぐ顔をあげ、ティムカを見る。
「あきらめません。
だって、試験はまだ終わってないんですもの・・・。」
あぁ、だから・・・。
だから彼女が選ばれたのだと、ティムカは思った。
どんな時も希望を失わない強さ。
それを彼女は持っているのだ。
それに気付いて、ティムカは自分自身を恥じた。
少しでも、彼女を疑った事が、ひどく愚か思えた。
数日後、試験は、レイチェルの勝利で幕を閉じた。
ティムカは教官の中で一番書きにくいなぁとか思いつつ書いてました。
実は、相手他のキャラ予定だったんですけどね。
ティムカの話〜と悩んでいたので、結局こういう形に。
でも、たぶんもうティムカを書くことはないだろう・・・とか思いました。(苦笑)
BADENDっぽくなってしまいました。
ハッピーエンド仕様(?)のオマケ付きなので、お暇な方はずずいと下へ・・・。
少女が一人滝を見ていた。
場所は森の湖。
彼女は女王候補だった。
昨日までは・・・。
がさり。
不意に木々が揺れて少年が現れた。
少女−コレットよりも幼い少年は、けれど、彼女の教官だった。
もちろん、これにも昨日まではという言葉が付くが・・・。
少年・・・ティムカはコレットが振り向かない事に不安を覚えながら、彼女に近づいた。
(泣いているのだろうか?)
そう思いながら声をかける。
「アンジェリーク?」
コレットが振り向いた。
その顔はとても穏やかで・・・負けたものの顔とは思えない。
「私ね、ティムカ様。」
ぽつりとコレットが話し出す。
「わかってたんです。こうなるだろうって。だって・・・。」
言葉を区切る。
少し躊躇って、コレットは続けた。
「だって、もっと大切なものが出来てしまったから・・・。」
だから彼女はそんなにも穏やかな顔をしているのだろうか?
そして、それは・・・。
「私・・・ティムカ様が・・・!」
コレットの言おうとした言葉をティムカは遮った。
コレットが絶望した顔になる。
それに少し後悔しながらも、ティムカは言葉を紡ぐ。
どうしても自分の口から伝えたかった。
「私の星に来てくれませんか?私の・・・妻として。」
そう、これは、彼らの物語の始まり・・・。
Fin
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