風の生まれた日



         どうしよう・・・。
          浮かんだのはそんな問いだった。
          言ってみるしかない・・・ということは分かっているのだが・・・。
          それにしたって・・・。
          (絶対に何か言われるわよね・・・。)
          急に休みが欲しいなんて言い出したら。
          (からかわれるのは嫌だけど・・・。)
          けれど、迷っている暇は無いのだ。
          「レイチェル・・・話があるの。」
          アンジェリークは自分の補佐官に思い切って声をかけた。
          「なに?」
          レイチェルがそう言って近づいてくる。
          その間も心臓が壊れそうなくらいドキドキしている。
          レイチェルの言葉しだいで明日の運命が決まるのだから、
          しょうがないといえばしょうがないのだが・・・。
          「どうしたの、アンジェリーク。そんなに改まっちゃって。」
          笑顔でレイチェルが言う。
          自分は、それほど硬い顔をしているのだろうか・・・?
          自覚しても柔らかな笑みを見せる事は出来ずに、
          レイチェルに向き合う。
          「あのね・・・明日、お休みが欲しいの。」
          上目遣いで、窺うようにレイチェルを見るアンジェリーク。
          その表情は、
          まるで死刑宣告を受ける罪人のように切羽詰っていて・・・。
          明日について何か言ってきたら
          からかってやろうと思っていたレイチェルは、
          けれどからかう事は出来なかった。
          「いいよ。」
          微笑みを浮かべながら、レイチェルはあっさりと言った。
          「え?」
          答えがよほど以外だったのだろうか。
          どこか抜けた表情で聞き返してきたアンジェリークに、
          苦笑を浮かべながらもレイチェルはもう一度繰り返す。
          「いいよって言ったの。お休みが欲しいんでしょ?」
          瞬間、アンジェリークは輝くような笑顔になった。
          「ありがとう、レイチェル!」
          「はいはい、お礼はいいから、さっさとプレゼント買いに行ったら?」
          幸せそうなアンジェリークに少し意地の悪い笑顔で告げると、
          アンジェリークは真っ赤になった。



          心地よい風が吹いていた。
          アルカディア。
          小さな宇宙にあるその小さな浮遊惑星を人々はそう呼んでいた。
          そのアルカディアの、大きな樹の前。
          そこで、アンジェリークは待っていた。
          ランディが現れるのを。
          最後に会ったあの日、
          いつか結婚式をあげよう・・・と言ってくれた事を思い出し、
          すこし紅くなる。
          幸せで・・・でも、なかなか会えなくて・・・・。
          だからこそ、
          互いの誕生日とクリスマスだけは一緒に過ごそうと約束した。
          どこか切ない気持ちになりながらも、その樹を見上げる。
          「アンジェリーク!」
          風がひときわ強まったような気がした。
          「ランディ様!」
          振り返ると、ランディがいた。
          「ごめん、少し遅れたかな?」
          微笑みながら言うランディにアンジェリークは首を振った。
          「いいえ、ちょうどですよ。」
          そう言って時計を見せる。
          アンジェリークの誕生日にランディが贈ってくれた物だ。
          「時計、つけてくれてるんだ。」
          「もちろんです。」
          嬉しそうに言うランディにアンジェリークは微笑みながら返す。
          「それじゃあ、行こうか。」
          二人、腕を組んで歩き出す。
          ただの恋人同士として・・・。



         幸せな時間はあっという間に過ぎていった。
          ふたりで買い物をし、食事をし、海を見た。
          離れている間の話や、
          アルカディアの思い出話をし、好きだと囁きあった。
          けれど、それが今、夢のように消えようとしている・・・。
          暗くなる気持ちを抑えて、アンジェリークは微笑を浮かべた。
          「これ、プレゼントです。」
          「開けてもいいかい?」
          「はい。」
          中から出てきたのは、シンプルな皮のブレスレット。
          ランディは滅多にアクセサリーをつけないが、
          それでも、何か身に着けられるものを・・・と考えて買ったものだ。
          「アンジェリーク、ありがとう、嬉しいよ。」
          そういって、ランディは腕にそれを着けた。
          「似合うかな?」
          子供のような無邪気な笑顔を向けるランディに、
          重い心が少し軽くなった気がした。
          つられて笑みを浮かべると、ふいにランディに抱きしめられる。
          「いつも着けるから・・・。君を思い出せるように。」
          二人の距離は遠い。
          「手紙も書くから・・・。」
          こくり、とアンジェリークがランディの胸の中で頷く。
          涙が・・・一滴零れる。
          涙を拭って上を見ると、ランディの真剣な表情が目に入った。
          笑顔も素敵だが、真剣な表情もかっこいい。
          (やっぱり好き・・・。)
          そんな事を思い、少し紅くなる。
          大丈夫だ、この気持ちは少し離れたくらいじゃ変わらない。
          
          恋人達の思いは・・・離れていても同じだった。
          






ランディ様お誕生日おめでとう〜と言う事で書きました。
2周連続でランディ様もの・・・。
オールキャラはどうした?
でもまぁ、ランディ様が書けて幸せな訳で・・・。
すこし、話が暗くなってしまいましたが。(誕生日なのに)
でも、結局、この二人幸せになれるのでしょう。
タイトルはそのままです。
訳分からない終わり方をしております。
文章力が欲しい・・・。