生まれた日、生まれた瞬間<トキ>



もうすぐ、君がこの部屋に来る・・・。

そわそわした気持ちを抑えられないまま、ランディはドアと机の間をウロウロとしていた。
理由は、分かっている。
分かっているのに押さえきれない子供のような心が、非常に厄介だった。

(『公私混同』だってゼフェルに言われそうだなぁ・・・)

いや、あるいはジュリアス様やオスカー様辺りかな?
オスカー様に叱られた場合は、きっとあとでからかわれるんだろうなぁ。

その様がありありと想像できてしまうのに、それでも浮き立つ気持ちを抑えられない。
後で来るお叱りよりも今のことが大事だった。

(だって、もうすぐロザリアが来る。)

本当なら、誰より先に『公私混同』だと怒るはずの彼女。
女王補佐官としてはそれが当然で、ランディもまさか、
彼女が執務の合間を縫って自分の部屋を訪ねてくれる約束をしてくれるなんて思ってなかった。

それでも、今日は特別だから・・・。
どうしても頭に浮かんだ提案を捨て切れなかった。

そして、彼女に伝えてしまったのだ。
―――駄目でもともとの覚悟だった。

(でも、彼女は来てくれる。)

自分の我が侭に付き合わせてしまった恋人を思う。
もちろん、彼女は最初、ランディを叱った。
それこそ、彼の予想通りに『公私の混同ですわ!』と。
けれどランディがその願いを口にした理由を話すと、彼女の怒りは鳴りを潜めた。

困ったような表情の彼女の姿がちらつく。

それから、彼女は『しょうがないですわね・・・。』と溜息を吐き、次に、全てを包むような微笑を浮かべたのだ。

(愛されてるなぁ。)

思い出しながら誰かに惚気るでもなくそう思う。
それは誰かに自慢したいというような思いではなく、ただしみじみとゆっくりと自分の中に広がっていく。
幸福感とともに。

自分はきっと彼女に凄く愛されている。

でなければ、あの彼女がこの時間に部屋を訪ねてはくれないだろう。
女王補佐官である事に誇りを持っている彼女だから。

(まずは・・・謝らないと。)

彼女が来て、まずすることを決めた途端、扉が遠慮がちにノックされた。
慌てて扉を、彼女を開けて迎える。

「ロザリア・・・ごめん、我が侭に付き合わせて・・・。でも、来てくれて嬉しいよ。」
「いいえ・・・わたくしがお祝いしたかったから来たのですわ、ランディ。誕生日、おめでとうございます。そして・・・あり
がとう、わたくしを選んでくれて。」

微かに頬を紅らめたロザリアに愛しさが溢れて、ランディの顔に自然と笑顔が浮かんだ。
愛する人に、生まれた日、生まれた時間を祝ってもらいながら。
ランディはその幸福を噛み締め、与えられた時間を二人で過ごした。

来年も、その次も、彼女と一緒に祝いたいと願いながら。







ランディ様がロザリアに頼んだのは
『生まれた瞬間を君に祝って欲しい』というモノでした。
・・・ロマンチスト(?)なランディ様なら言いそうかなとか。(爆)
(むしろ『言えそうかなぁ』ですけど・笑)