蒼い天使



もうすぐ女王試験が終わる・・・。
その事実に、ロザリアはあせっていた。
女王試験の終わり・・・それは彼女の最初に望んだ終わりだった。
けれど今。その事実が彼女に重くのしかかる。
(女王になってしまう・・・。)
自分がこんな風に考えるようになるとは、誰が思っただろう?
女王になるための教育を受け、自分でも、そうなると信じていた。
なのに・・・。
(今はその事がこんなにも苦痛だなんて・・・。)
思わずため息が出た。何日か前から彼女は育成の手を休めていた。
それでも、彼女を女王にと押す守護聖達の贈り物で、彼女の大陸は発展を続けていた。
彼女の心を残して、試験は終わりを迎えようとしていたのである。



「くそっ・・・!」
大陸の様子を見て思わずそんな言葉が出た。
この様子では、ロザリアは明日にでも女王になってしまうかもしれない・・・。
それでも、彼にはどうしようもなかった。
なぜなら、ほとんどの守護聖が、彼女を女王にと望んでいたのだから・・・。
背を向けた瞬間、それは起こった。
「なっ・・・!」
大陸から光があふれたのだ。見ると、中央の大陸に家が出来ている。
まぎれもない、ロザリアの民の家・・・。
試験は終わったのだ・・・。



そこは静かな場所だった。一人になりたい時、いつもここに来ていた。
もうすぐ夜が明ける。朝になればロザリアは宮殿へ赴き、女王となるだろう。
それでも、ゼフェルにはどうする事も出来なかった。
ただ、こうして一人でうずくまり、朝なんてこなければいいと願う以外は・・・。
「ゼフェル・・・。」
その静かな場所に、他の訪問者がきた。
青い瞳が、悲しげに揺れている。
心優しいその青年はゼフェルの悲しみを、自分のことのように感じているのだろう。
「何でオメーがそんな顔してんだよ、ランディ。」
ぶっきらぼうに聞く。ゼフェルは別にランディにそんな顔をして欲しかった訳じゃなかった。
「ゼフェル・・・いいのか?」
ためらいがちにランディが聞く。
それに、少し首をすくめてからゼフェルは答えた。
「いいもなにも、しょうがないだろう・・・?」
彼女が望んだ終わりなのだから・・・。
「しょうがなくなんてないよ。」
ゼフェルのものでもランディのものでもない声がした。
マルセルだ。彼もゼフェルを心配してきたのだろう。
「あきらめるの?ゼフェル。」
その瞳には強い意志が見られる。
「本当にあきらめられるの?」
ゼフェルはついっとマルセルの瞳から目を逸らした。
まっすぐな視線が痛い。
「ゼフェルの意気地なし。」
マルセルが吐き捨てるように言った。彼にしては珍しい事だった。
「行動する前から諦めるなんて、僕の知ってるゼフェルじゃない。」
その言葉にはさすがにゼフェルもかちんときた。
「しょうがないだろう!あいつが望んだんだから・・・!!」
「しょうがなくなんてない。」
マルセルはもう一度言った。
「確かに、この終わりは最初にロザリアが望んでいたものかもしれない。
 でも、今は?今の望みがそうだと言える、ゼフェル?」
尋ねられて、ゼフェルはたじろいた。そうだ、彼女の口から『今の望み』を聞いていない。
決断するのはそれを聞いてからでもいいはずだ。
「そうだな・・・。」
ゼフェルに笑顔が戻った。
「サンキュー、マルセル、ランディ。」
言うが早いか、彼は駆けていった。彼の蒼い天使のもとへ。



「ロザリア!」
夜も明けないうちから聞こえた声に、最初は幻聴かと思った。
そんなはずはないと思いつつ、窓を開ける。
「ゼフェル様!」
窓の外に居たのは、やはりその人だった。
「おめーが女王に決まった。」
淡々と言った。ロザリアを絶望が包む。
「そうですか・・・。」
「だけど、おめぇが望むなら、俺はロザリア、おめーと一緒に行く。」
あまりにストレートな告白。全てを捨てて共に行こうとゼフェルはいった。
涙が出た。
「ロザリア?」
突然泣き出したロザリアに、ゼフェルはたじろいだ。
「嫌なのか・・・?」
ためらいがちなゼフェルの問いに、ロザリアは首を振った。
「いいえ。嬉しいんです。」
泣きながら微笑むとゼフェルも笑った。
その日の朝、飛空都市に鋼の守護聖と蒼い女王候補の姿はなかったという・・・。





アンジェリーク10巻が出ましたね〜。
その話を読んで、ゼフェルとロザリアの話が書きたいと思ったんです。
そして・・・書きました。(爆・本能のままに生きる女)
本当はルヴァ様に諭されるはず・・・だったのですが。
なぜかマルセルがでしゃばりました。
でもランディ様が書けて(少しだけど)幸せ。(←勝手にやってろ)
下の方に短〜い後日談があります。












































「まったく、何たる事だ・・・。」
ジュリアスがため息をついた。
「守護聖が女王をさらって逃げるなど・・・。」
その様子を見てルヴァは苦笑した。
彼はそれでも良かったと思っているからだ。
「まぁまぁ、いいではありませんか、ジュリアス。」
微笑みながらなだめる。
「思いを止める事は誰にも出来ないのですから。」
その言葉にジュリアスは憮然とした。
「さあ、ジュリアス、お茶でも飲んで落ち着いてください。」
そう言ってルヴァはジュリアスにお茶を勧めた。
考えているのは別の事だったが・・・。
(幸せになってほしいですねぇ・・・。)
不器用だが素直な少年を思い浮かべる。
そして、気高く優しい少女を。
あの二人ならきっと幸せになるだろう。
二人の幸せを願い、空を見上げた。
まぶしいくらいの蒼い空・・・。
聖地は今日も平和だった


Fin