金色の蝶



ずっと好きだった・・・。



好きになった時の事は、もう覚えていない。
ただ、最初はひどく苦手だった。
初めてあった時、その全てを見透かすような瞳が怖かった。
青い蒼い瞳は、決して甘えを許さなかった。
だけど、ある日気付いた。
その瞳が、時折、ひどく優しい光を宿す事に。
やがて、いつの間にか、その姿を目で追う様になっていた・・・。



「好きです。」
さらさらと流れる水の音がやけに大きく聞こえた。
一瞬を永遠のように長く感じる。
「私にはその言葉に答える事は出来ない。」
言われた言葉は、欲しい言葉ではなかった。
でも、言われるだろうと思っていた言葉だった。
何故自分は泣かないのだろうと、何処か他人事のように考える。
「部屋まで送ろう。」
何もなかったかのように、残酷にジュリアスが言う。
こくり、と金の髪を揺らしてアンジェリークは頷いた。
声を出したら泣きそうだった。
そのまま二人歩き出す。

部屋に着いて、ジュリアスはようやく口を開いた。
「アンジェリーク、私はそなたに女王になる資質があると思う。」
だからその思いに答える事は出来ない、とジュリアスは言った。
(ジョウオウコウホダカラ・・・?)
では、女王候補でなければいいのかと問い返したかった。
ジュリアスのためならば、女王の座だって捨ててみせる。
それでも尋ねなかったのは、答えがわかりきっているから・・・。
後の言葉は耳に入らなかった。
気付くと、いつの間にかジュリアスの姿は部屋から消えていた・・・。



「アンジェリーク!」
扉をたたく音がする。
声はロザリアのものだ。
ふらふらと扉に近寄り、開ける。
「あんた、何してるのよ!育成もしないで!」
彼女の怒りは最もだ。
少し前までアンジェリークが女王になるだろうと皆が言っていたが、
今、形成は逆転していた。
「近いうちに、私が女王になる事が決まるわ。」
ロザリアが高々と言い放つ。
でも、ロザリアが来た本当の意味は、きっとこんな事を言うためじゃない。
アンジェリークを心配してきたのだ。
不器用な人・・・。
それに好きな人を重ねて、アンジェリークは微笑んだ。
「ありがとう、ロザリア。」
「何、礼なんていってるのよ。」
少し紅くなってロザリアが言う。
「あっ、そうね・・・。」
クスクスとアンジェリークが笑う。
まるで、壊れそうな笑み。
「アンジェリーク・・・?」
何か尋ねたそうなロザリアに、アンジェリークは何も言わなかった。
代わりに祝いに言葉を述べる。
「少し早いけど、おめでとう、ロザリア。」
そんなアンジェリークの態度がひどくロザリアには気にかかった。



翌日、アンジェリーク達は女王の宮殿に来ていた。
昨日、ロザリアの宣言通り、ロザリアが女王に決定した。
今日は彼女の戴冠式だった。
「ロザリアを女王とする・・・。」
女王が述べる。
「だが、アンジェリークも良く頑張った。彼女を補佐官にしてはどうだろう?」
女王の言葉に、アンジェリークの心は凍りそうになった。
傍に居るなんて耐えられない・・・。
「そうですね・・・。」
ロザリアが呟き、アンジェリークの方を誰にも気付かれないように見た。
アンジェリークも誰にも気付かれない様にゆっくりと首を横に振る。
「私一人で大丈夫ですわ。」
誇り高く言った新女王に、皆が賛辞を述べていく。
最後はアンジェリークの番だった。
「おめでとう、ロザリア。いえ、新女王陛下。
 わたし、あなたと試験を受けられた事を忘れない。」
微笑を浮かべ、アンジェリークは最後に、囁くように言った。
「ありがとう・・・。」
今までありがとうという意味に、他の者は取っただろう。
もちろん、その意味も有った。
けれど、彼女の意思を尊重してくれた事に対しての礼だった。
ロザリアは、アンジェリークの意思を無視して補佐官にする事も出来たのだから・・・。
最後に微笑を残し、アンジェリークは聖地を去っていった・・・。





なんか暗い話になってしまいました・・・。
別バージョンを2パターンほど考えたんですけどね〜。
どうやったって、暗い終わりになってしまいました。
(↑アンジェリークが死んだり・爆)
そういや、まともにハッピーな話って無い・・・。(核爆)
タイトルはジュリアスをイメージ。
蒼い空に飛んでいく金色の蝶(ジュリアス)をアンジェリークは捕まえられない・・・という意味です。
タイトルからして暗いですね・・・。
別バージョンも暇があったら書いていきたいなぁ・・・とか。