その時、扉が開いた
人にはどうしても出来ない事があると思う。
そう、どんな人間にも一つくらいは。
(でも、そんな事言ってられませんわ。)
溜息をついて、ロザリアはさきほど下ろしたばかりの手をもう一度上げた。
そして扉をノックしようとして・・・出来なかった。
扉を叩こうとするそのまま止まってしまった自分の手を見て、ロザリアはもう一度溜息をつく。
(出来ない、なんて言ってられませんのに?)
扉を叩く事が出来ない。
女王候補として聖地に招来されて一日・・・ロザリアは壁にぶつかっていた。
どうしてもダメなのだ・・・この扉の向こうに、神とも尊敬していた守護聖が居ると思うと扉を叩けない。
(ずっと女王になる事を夢見てきましたわ。)
でも、本当に自分の生きているうちに試験が行われると確信していたわけではない。
むしろ、それを夢見て、いつか風化して。
そして子供が出来たら『お母様も女王を夢見た事があるのですよ。』と子供に伝える。
そんな、漠然としたものだったのだ。
(・・・だから。)
それが現実まで近付いた今、こんなに困惑している。
扉を叩こうとしていた手が、みっともないくらいに震えてしまう。
こんな風に戸惑っている場合ではないのに。
もう、試験は始まってしまっているのに。
(・・・どうして・・・。)
どうして自分には出来ないのだろう?
もう一人の候補であるアンジェリークは、震えながらも扉を叩いて、そうして守護聖の待つ部屋へと入っていった。
いくら物怖じしない性格でも、彼女にだって不安はあっただろうに。
そんな彼女に出来た事が、どうして自分には出来ないのだろう?
(わたくしは・・・誰よりも女王に相応しいはずですのに・・・?)
周囲に、家族にそう言ってもらい、自分でもそう思っていた。
けれど、同じ候補生の少女に出来て自分に出来ない、その事を自覚してロザリアは不安になった。
本当に自分は女王に相応しいのだろうか?
時は刻々と流れていて。
いつ彼女が執務室から出てくるかも分からなくて。
だからそんな風に考えに沈んでいる間などないと分かっていても、現実逃避のように考えてしまう事をやめられない。
(わたくしは・・・本当に・・・?)
「あれ?えっと・・・ロザリア?」
その時、扉が開いた。
驚いて辛うじて上げていた手を手元に持っていく。
そこには、昨日会ったばかりの守護聖の青年が居た。
「ランディ様・・・。」
「あ・・・ゴメン、驚かしちゃったかな?」
辛うじて名前だけ呼んだロザリアにランディは微笑む。
その微笑が温かくて、自分と同じ人間なのだと今さら感じて。
ロザリアはほっと笑みをもらした。
「いいえ・・・。あの、育成をお願いしたいのですけど、よろしいでしょうか?」
「あぁ、もちろん。・・・っと、どうぞ、中に。」
用件を口にしたロザリアに頷いて・・・それから慌てたように付け足したランディにロザリアは、またふわりと笑った。
気負う気持ちはもう消えていた。
ロザリアとランディ様の出会い編といった感じでしょうか。
いくらロザリアでも緊張するだろうなぁと思いました。
なんというか、ラブラブ話ではない気が・・・。
なにはともあれ、4年目も頑張っていこうと思いますのでよろしくお願いしますm(__)m
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