聖地の結婚式



空は蒼く澄み渡っている・・・。


その日も聖地はとてもよい天気だった。
緩やかな風が彼女の瞳のような瑞々しい木々を揺らしていく。
遠くでは賑やかな声が聞こえる・・・。
今日は結婚式だ。彼女の・・・。
本来なら笑っておめでとうと言うべきなのだろう。
でも・・・とてもじゃないが、笑える自信が無かった。
もしもあの時・・・と思う。
もしもあの時この気持ちを言っていれば、彼女の隣に立っていたのは自分だったのだろうか?
「マルセル・・・」
優しい声に呼ばれて振り返る。
声の主は分かっていた。周りの事をいつも気遣う優しい青年。
きっとマルセルが居ないのに気付いて探しに来たのだろう。
「リュミエール様。」
名を呼んでゆっくり立ち上がりながら振り返ると、
思ったとおり優しい微笑を浮かべた彼が居た。
「どうしたのですか?」
少し首をかしげて優しく尋ねられて、涙がこぼれそうになった。
何も言わずに俯いているマルセルに、リュミエールはもう一度声をかけた。
「どうかしたのですか、マルセル?」
ゆっくりとマルセルが首を振る。なんでもないと言うように。
「マルセル?」
名を呼ばれ、ビクリと顔を上げたマルセルの菫色の瞳は、涙が溜まっていた。
「僕・・・ダメなんです。」
ぽつり・・・と洩らす。
「だめ・・・?何がですか?」
リュミエールの優しい声に誘われるかのように、マルセルはぽつりぽつりと言葉を紡いでゆく。
「僕、ダメなんです。せっかくの彼女の門出なのに・・・。」
涙が一筋流れてゆく。
「言えないんです、おめでとうって・・・。彼女が好きだから・・・。」
彼女が好きで、好きでたまらなかった・・・。
でも、彼女が選んだのは自分じゃなくて・・・。
「マルセル・・・。」
優しい水の守護聖は、悲しげに微笑んで彼の名前を呼んだ。
「マルセル、お泣きなさい。そういう時は泣いていいのですよ。」
せきをきったかのように涙が出た。
思いを押し流すかのように。


「落ち着きましたか?」
優しく尋ねられて、マルセルは頷いた。
「はい。だいぶすっきりしました。」
話したのがリュミエールでよかったと思う。
「マルセル、言えそうですか?」
心配そうに言うリュミエールに、微笑を返す。
「大丈夫です、ちゃんと言えます。」
それに・・・と付け加える。
「これも渡さなくちゃいけないし。」
そう言って、置いてあった真っ白なバラの花束を持つ。
「それは・・・?」
「彼女へのプレゼントです。ヒマワリの方が似合いそうだけど。」
「そうですか・・・。それでは行きましょう。」
ゆっくりと二人は歩き出した。

結局、マルセルは微笑んで「おめでとう」と言うのが精一杯だった。
それでも、マルセルの思いは届いたようだった。
二人の幸せを祈る気持ちは・・・。






アンジェリーク作品第二段です。
この結婚式、多分ランディ様と金髪のアンジェのものでしょう。(多分?)
お兄さんの同然の人と、好きな人の結婚・・・。泥沼?
でもまぁ、マルセルの好きは、たぶん家族愛的なもの(憧れ?)を勘違いしてるだけでしょう。(苦笑)
・・・ていうか、笑顔でおめでとうって言えたら十分だと思うんですけど。
元ネタはI wish〜永遠の蕾〜(アンジェリークの曲。マルセル様とリュミエール様が歌ってます。いい曲♪)
でも、この話も、ちょっぴり危ないように思えたり。(爆)
↑私が腐っているせいでしょうが・・・。