Change



その日も聖地は晴れていた。

朝霧のかかる聖地。
少し寒い冬の始まりの朝。
あたりはとても静かで、寒さは震えるようだった。

けれど、それはいつもと変わらない聖地の風景だ。

まだ、陽が顔を出したての早朝の聖地。
紫に染まる空も美しく、すぐに失われるのが惜しい。

「本当にいいのか?」

傍らに、彼女を守るかのように立つ愛しい人が不安そうに問うた。
それに彼女・・・コレットは微笑を返す。
いいのだと暗黙の答えと共に。

それからまた、眼下に広がる聖地を見やった。

何も変わらない。
そう、これからも聖地は永遠にこれを繰り返していくのだろうと思わせる光景。
そういえば以前もこんな光景を見たことがある。

あれは、そう、まだ彼女が聖地に来たての頃。
右も左も分からず、いきなりつれてきた聖地に戸惑っていた頃だ。

あの頃はよく一人で泣いたものだと、まだ半年も経っていない事を遠い過去のようにコレットは思い出した。

あの頃はよく一人で泣いた。
こことよく似た、聖地をよく見渡せる丘で。
夜の外出は禁じられていたが、それさえも破って。
バレて、いっそ女王候補でなくなれば帰れる、などとほんの少し思いながら。

それは本当に遠い過去のことに思えた。
あるいは、他人の通ってきた物語に。
けれど、たった数ヶ月前の事なのだ。

そこでコレットは白い息を吐き出した。
溜息に似たソレはすぐに空に溶ける。

「コレット?」
「なんでもないです。」

労わってくれる温かさが嬉しい。
そう思いながらコレットは微笑んでヴィクトールに視線を送った。

その数ヶ月で、彼女はとても変わった。
それは彼女自身も自覚していた。
そして変えたのは、変われたのは・・・。
傍らに立つ、その人のオカゲだ。

感謝の念を含みヴィクトールを見てから、再びコレットは聖地へ視線を落とした。

聖地は変わらない。
一人で朝を迎えたあの日から。
まだ女王候補だったあの日から。

だから、彼女達は出て行くのだ。

彼女達は変わるから。

彼女はもう女王候補でなく、傍らに立つその人はもう、彼女の教官ではないから。

「行きましょう?」

視線の下広がる聖地を記憶に焼き付けるようにもう一度見やって。
コレットはヴィクトールの手をとって、聖地と反対方向へ歩き出した。