クラヴィスは3度目の女王試験に立ち会っていた・・・。



温かな響き



3度目の女王試験。
最初の試験に立ち会った時には、まさか、3度も立ち会うとは思ってなかったはずだ。

古い記憶をクラヴィスは思い出す。
金の髪の、彼の愛した少女。
今も鮮烈にその印象は残っている。

今回来た二人の少女は、彼女と少しも似通ってなかった。

金の髪の少女と、茶色い髪の少女。
そう、一人がたまたま彼女と同じ色の髪を持ち。
もう一人がたまたま同じ名を持つ。
それだけだ、共通点は。

なのに。

なのに、二人の少女の影に『彼女』がちらつく。
きっともう、この世界から、失われているだろうと彼女。
その彼女を思い出すことさえ、苦痛で。

クラヴィスはだから女王試験が始まってから極力部屋へ閉じこもった。
閉じこもり、何も見ないように、何も聞こえないように、
目を閉じ、耳を塞いだ。

彼女の残像から逃れるように。
彼を苛む影から、目を背けたのだ。



『ワタシ達が嫌いですか?』

不意に。
先日、金の少女が放った言葉が脳裏に響いた。

いつも自信に溢れた彼女の双眸が微かに揺れた。
ソレを見ても、クラヴィスは何も言わなかった。

・・・言えなかった。

何を言えばいいのだろう?
キライではなく、恐ろしかったのだと正直に告白すればよかったのだろうか?

けれど、そういっても届かないとクラヴィスは口を噤んだ。
逃げ続けた自分の言葉が、今さら誰に届くはずも無いと。
それこそが逃げであると気付きながらも。

『クラヴィス様はズルイ。そうやって口を噤んで、いつもコタエをくれない。・・・ズルイです。』

レイチェルの瞳がさらに揺れた。
それを見て、クラヴィスは彼女が何かを躊躇ってる事を知った。

『クラヴィス様は・・・ワタシがキライですか?』

それでも何も言わずに見守っていたクラヴィスに、レイチェルは繰り返すように言った。
その思いつめた表情に、思わずクラヴィスは口を開いた。
それでも、言葉は出ずに沈黙が流れる。

『違う。』

ようやくクラヴィスが洩らしたのは、本人自身でさえそっけないと感じるほどのセリフだった。
それでも、その言葉にレイチェルの表情が見る見る変化する。
瞳に光が戻り、花が咲いたように彼女は笑った。

『よかった・・・。あの、いきなりごめんなさい。でも、ずっと気になってたんです。』

言い訳のように、まだ笑みを抑えきれないままでそう言って。
見ていて清清しくなるようなその笑顔のまま彼女は一礼して、去っていった。



蘇った出来事に、クラヴィスは微かに笑みを浮かべた。
閉ざされた窓へ近付き、少しカーテンを開ける。
眩しい光が入ってきて、彼の部屋にたむろっていた闇を和らげた。

クラヴィスは微かに目を眇め、けれどカーテンを閉める事無く、そのまま外へ視線をやった。
目はやがて光に慣れ、彼の視界に外の光景が入ってくる。
そこには、二人の少女がいた。

彼女の影が少女達にちらついていたのは、つい先日の事だ。
けれど、レイチェルとの会話の後、二人の少女の影から彼女は消えた。

微かに目を細めたクラヴィスをレイチェルが見つけて、大きく手を振った。・
嬉しそうに満面の笑みを浮かべたまま、レイチェルの唇がクラヴィスの名を刻む。
その声はクラヴィスの部屋までは届かなかったが、クラヴィスの耳には、確かにレイチェルの呼び声が聞こえていた。

その久しぶりの温かな響きに、クラヴィスは微笑んだ。






そんな訳で、初レイチェルです。
レイチェルも金の髪の女王候補だよね〜。
とか思って、思わずクラヴィス様とくっつけてしまいました。(爆)