自分を見つめる視線に気付いて、ロザリアは振り向いた。




Mind





「何かわたくしに用でもあるんですの、オリヴィエ?」

あくまで補佐官の顔で。
ロザリアはそう自分に言い聞かせながら、自らの恋人にそう聞いた。
その時点で、もうその努力が無駄に終わっている事に気付かずに。

「ん〜?何でもないよ?」

相変わらず読めない微笑で。
彼はそう言った。
その顔がどこか寂しげに見えて、ロザリアは焦る。

いつも通りの微笑のはずだ。
大人で、彼女にさえほとんど本心を見せないこの恋人。
でも、だからこそロザリアは、そういった微妙な違いがわかるようになっていた。

「オリヴィエ?」

まるで彼が遠くに行ってしまいそうで、不安で。
ロザリアは彼に声をかけた当初にした決意をすっかり忘れ、
思わず彼女自身に戻って彼を見上げた。

オリヴィエはまだ微笑のままだ。
だからさらに不安になって、ロザリアはオリヴィエの腕を思わず掴む。

ロザリアよりも装飾の多い腕は、けれど男性のもので。
その感覚に、オリヴィエがこの場に居る事を確認し、
その当たり前の事実にロザリアはほっとした。

そして反射的に思わずぎゅっと腕にしがみつく。
それは彼女の紛れなく本心で。
滅多に出る事の無い、彼女の隠された気持ちでの欠片で。
決して遠くに行かすものかという、想いの表れだった。

彼女自身さえ気付かないその本心に、オリヴィエは気付く。
だから今度は本心から微笑んだ。

「オリヴィエ?」
「最近さ。」

その微笑に気付いたロザリアがオリヴィエの腕をとったまま彼と視線を合わす。
彼は幸せそうに微笑んで、けれど視線を逸らすように空を見上げた。
空はロザリアの瞳のように青い。

「綺麗になったよね、ロザリア。」
「え?」

また寂しげに微笑んで、オリヴィエはロザリアに視線を合わせた。
言われた言葉は褒め言葉なのに、
どうしてオリヴィエがそんな顔をするのかが分からなくてロザリアは困惑する。
それを見てオリヴィエは苦笑に近い笑みを漏らした。

「ちょっとだけ不安になった。それは誰のためだろうって。」
「・・・オリヴィエ。」
「まるで、アンタが遠くに行ってしまうようで。」

低く彼の名前を呼んだロザリアを無視する形で独白のように呟いて。
それからオリヴィエはまた笑った。
彼の心を隠す、仮面の笑顔で。

それが悲しくて。
悔しくて。
ごちゃごちゃの気持ちのままにロザリアはオリヴィエを見返した。

気持ちを落ち着けるために、一つ、息を吐く。

「どうして。」
「ん?」
「どうして、そんな風に考えるんです?」
「ロザリア。」

落ち着いた彼の声が気に食わない。
ロザリアはまとまらない考えのまま言葉をつむぐ。
それは、彼女の心の叫び。

「わたくしは、オリヴィエが好きですわ。」
「うん。」
「知っているなら、どうしてもっと自信を持ってくださらないんですの?
あなたらしくないですわ。
綺麗になった、とおっしゃるなら、わたくしをそうしたのはあなたですわ!」

微かに紅くなって。
珍しく声を荒げたロザリアをオリヴィエは衝動的に抱きしめた。

「わたくしには本心を見せて欲しい。
そんな悲しい笑顔で繕わないで、本音を聞かせて欲しいと思いますの。」

我侭かもしれませんけど、とロザリアは表情を隠すようにオリヴィエの胸に顔を埋めた。
オリヴィエの腕の力が、一瞬、強くなる。

そんな優しい我侭なら。
そんな優しい我侭なら、何度でも聞きたいと、思った。






測らずしもバースデーノベルとなりました。(ぉ)
本当は、更新する気無かったんですけど。
今日はたまたま時間が・・・。(爆)
とりあえず、今度の更新はオリヴィエって決めてました。
10月生まれだし〜と。
で、リモージュともコレットとも書いたのでロザリアに。
とりあえず、オリヴィエは守護聖で一番大人だと思います。
その分、自分の感情を押さえつけそうだなぁと。