始まりの物語



初めてだったのだ。
その人の部屋に呼ばれたのは。

その部屋に入ったことがないわけじゃない。
その部屋を整えたのは自分だったから。

それでもその時と部屋は様相をかえ、ロザリアの瞳には輝いて見えた。

いつも外で出会って、挨拶して。
そんな関係だった二人は。
そんなある日、貰った言葉。

『僕の部屋に来てみませんか?』

多分、いつもの気まぐれだったのだろう。
それでも、彼女とってはとても嬉しくて。
らしくもなく浮かれて。

今日、女王補佐官のベールを脱いだ彼女がその部屋にはいた。

「セイランの部屋って、こんな風ですのね。」

らしくもなく独り言を呟いて、
部屋を興味深々といった様子で部屋を見て廻るロザリアに、セイランは柔らかく笑う。
背中を向けていたロザリアには、その微笑みは見ることが出来なかったが。

「お茶、淹れてきます。何がいいですか。」
「あ、いえ、すぐに帰りますわ。」
「僕が淹れたいんですよ」

クスクスと笑ったセイランに『それではおまかせしますわ。』とロザリアは微笑み返した。

「少し、部屋を見せていただいてもよろしいかしら?」
「えぇ、かまいませんよ。」

その言葉にロザリアは嬉しくなる。
セイランが他人の干渉を嫌う事を知っていたから。
まるで、干渉を許されたようで。

まるでただの『ロザリア』だった頃に戻ったようだと思いながら、
ロザリアはセイランの部屋を見てまわる。

本棚には色々な詩集や本。
その中にはセイランの書いたものもあるようだ。

セイランの書いた本の一冊を手に取りパラパラ捲ってみる。
その文章に引き込まれて、一ページを読み終わり本から視線を外すと、
そこにあったモノにロザリアは興味を引かれた。

それは、おそらくセイランが書いたであろう絵。
布をかけられたソレを悪いと思いつつ覗き見た。

そこに描かれていたのは・・・。
優しく微笑む、天使。

見なければよかったと思った。
そうすれば、幸せな気分のまま居られたのに。

ちょうどその時、セイランが帰ってきた。
その音にロザリアは我に返って扉を見る。
二つの蒼い視線が交わって・・・。

その瞬間、ロザリアはその場から、逃げ出していた。

今まで出一番速く、走った。

息が上がるのも気にせずに。
その醜態を他人に見られることさえ気にせずに。

走って走って。
まるで捕まってしまったら世界の終わりだというように。

けれど、終わりは来る。
セイランにその手を捕られたことによって。

それでも諦めはつかなくて、ロザリアは手を振り解こうともがいた。
それでもセイランの手は外れない。

「どうしたんです!?」
「別に・・・なんでもありませんわ。」
「何でもないって言う顔じゃないでしょう?」

キッとロザリアはセイランを睨んだ。
こんな思いをさせているのはセイラン自身なのに、と理不尽な怒りが湧いてきた。

「わたくしの事なんて何も知らないのに、知ったような口をきかないで。」
「知りませんよ。」

きっぱりと言われたセイランのセリフにまた、ロザリアは傷付く。
自分で言った言葉にもかかわらず。

セイランは俯いたロザリアの手を離すと、髪を掻き揚げた。
その息は、まだ乱れたままだ。
それでもセイランは言葉を紡いだ。

「知りませんよ。分かりませんよ。
 僕は貴女じゃない。僕は『女王補佐官』の貴女しか知らない。」

そこで一息ついて、セイランはちらりとロザリアを見た。
ロザリアはまだ俯いたままだ。

「でも、分かろうとすることは出来るんです。
 だから僕は貴女を部屋に招いた。
 ・・・『女王補佐官』ではない貴女を知るために。」

セイランがいつも言葉を交わすのは、『女王補佐官』のロザリアだった。
優しい、有能な補佐官。
けれどいつしか彼女自身を知りたいと思った。

ロザリアという、17歳の少女を。

「貴女は?どうして僕の招きに応えてくれたんですか?」
「わたくしも・・・同じですわ。」

ロザリアの口から素直な感情が出た。
それはロザリアのものだ。
女王補佐官のものではない。

「じゃあ、どうして逃げたんです?」
「それは・・・アンジェリークの絵を見てしまったから・・・。」

もう一度俯いてしまったロザリアのセリフにセイランは首をかしげた。

「アンジェリーク・・・?もしかして、あの天使の絵ですか?」
「えぇ。」

頷いたロザリアに微笑みかける。
そしてセイランは秘密を教えた。

「あの天使のモデルは貴女ですよ?」
「え?」

ロザリアの驚いた顔に満足げに微笑んで、セイランはロザリアに手を差し出した。

「それじゃあ、帰りましょうか。」
「・・・えぇ。」

少し躊躇ってから、ロザリアはセイランの手を素直にとる。


・・・二人の物語は、まだ、始まったばかり。







お待たせいたしました、チェリコ様。
最後の最後までどちらを書かせていただくか悩んだのですが、
結局、セイ×ロザの方にさせて頂きました。
・・・実は好きです、セイ×ロザ。(爆)
本当に一月以上もお待たせした上にこんな駄文で申し訳ありません・・・!!
折角の素敵リクエストが・・・と後悔もヒトシオです。(汗)
チェリコ様、こんな駄文ですが貰っていただけると幸いです。
素敵なリクエスト、ありがとうございました!!