もう一度



敵わないとそう思った。
そう思った瞬間、絶望が身を襲った。

自分がそんなに弱い人間だとは思っていなかった。
敵わないとそう悟った瞬間に、外へ出ることさえも怖くなるなんて。

(わたくしは・・・。)

そもそも。
もう一人の女王候補・・・リモージュに負けるはずなんてないと思っていた。
自分は今まで女王となるために育てられてきたのだ。
そんな自分が負けるはずないと思っていた。

(なのに・・・。)

なのに、だ。
試験が始まってたかだか2月。
リモージュは確実にロザリアに追いつき、今、追い越そうとしている。
勝っていただけに、追い抜かれるその瞬間が怖い。

コツン

小さな音に、ロザリアははっとした。
ばあやではないはずだ。
一人にして欲しいといいくるめておいたのだから。
では・・・?

「俺だよ、ロザリア。」

そろそろとドアに近付いたロザリアの耳に、久々に聞くランディの声が届いた。
慌てて扉を開けて、公開した。
なんと言い訳すればいい?

「久しぶり。」

それでもランディはロザリアを責めるでもなく。
優しくそう微笑む。

「中へ・・・入れてもらえるかな?」
「え・・・えぇ、もちろん・・・。」

答えてからロザリアは自分の状態に気付いた。
髪は乱れて、服は寝巻き・・・部屋も明かりを落したままだ。

とりあえず部屋の電気をつけてお茶をいそいそと用意しようとするロザリアを名前を呼んでランディが止めた。

「ロザリア・・・俺が来た理由・・・わかるよね?」
「はい。」

まるで死刑宣告を受ける気分だった。
それでもロザリアはランディに向き直った。
ここで逃げても始まらないと、そう思った。
ここで逃げたら逃げ続けなければいけなくなる、とそう思った。

「どうして、試験を放棄してるんだい?」

言葉は核心をついた。
思わず俯いて言葉を捜す。
それから、誤魔化しの言葉を探している自分に苦笑してロザリアは顔を上げた。

「怖く、なったのですわ。」

たとえば、他のどの守護聖が部屋を訪ねても、ロザリアは部屋に入れなかっただろうし、言葉を偽っただろう。
それでも、ランディにだけは嘘をつけなかった。
―――知って欲しかったのかもしれない。

「足音が聞こえるんです。」

それは幻の音。
けれど、決してただの幻ではなく・・・確実に近付くリモージュの足音。

「それを聞いて、わたくしは怖くなった。」
「それで、部屋から出れなくなった?」

言葉に頷いたロザリアに、ランディは鋭い視線を投げかけた。
責めるような視線に、ロザリアはまた俯いてしまう。
本当に弱くなったものだと、自分でも思った。

「それで、君は何かをしたのかい?」
「え?」
「リモージュは努力して、君に追いつこうとしている。君は?何をした?」

そこで気付いた。
リモージュだって何もせず追いつこうとしているわけではない。
あの歴然とした差を縮めてきたのだ・・・きっと・・・。

「何も・・・何も・・・してませんわ・・・。」

それに比べて、自分はどうだろう?
足音に怯えて、蹲って・・・立ち止まって・・・。
まだ、自分は何もしてない。

「まだ、間に合うかしら?」
「もちろん。」

思わず出た呟きに、ランディは全快の笑顔で頷いた。
それを見て、ロザリアも思わずつられて笑う。

もう少し、頑張ってみよう。
もしかしたら、もう負けてしまうかもしれない。
それでも、いい。

ランディの笑顔に勇気付けられて・・・。
ロザリアはもう一度、足を踏み出した。






久々の更新となりました。
というか、久々の更新がコレだとは・・・。(汗)
そもそもCP小説になって無い気がしてなりません。
突っ込みどころ満載ですが・・・スルーしてくださると嬉しいです・・・。